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北限の針葉樹 — 青森ヒバが津軽・下北に集まる理由
豆知識 · 2024.08.15

北限の針葉樹 — 青森ヒバが津軽・下北に集まる理由

全国のヒバ蓄積量のおよそ8割が青森県に集まる、その地理的な背景。北海道渡島半島を北限とする天然分布と、津軽・下北の気候・地質が「ヒバの森」を作ってきた条件について。

豆知識シリーズ、第2回。今月は青森ヒバの「分布」のお話です。

「青森ヒバ」と地名つきで呼ばれるくらいですから、青森県に多いことは想像がつきます。けれども、実際にはどのくらい青森に集中していて、どこからどこまでが「ヒバの森」なのか。少しだけ地理の話をします。

北は渡島半島、南は紀伊半島まで

青森ヒバ(ヒノキアスナロ)の天然分布は、北海道渡島半島の南端を 北限 として、青森・秋田・岩手の北東北、ぐっと飛んで福島南部、関東北部、新潟、長野の一部に点在します。母種にあたる アスナロ はさらに南へと分布を広げ、本州中部から四国の山岳、南は紀伊半島まで及びます。

つまり、属としては日本列島の広い範囲にいる木なのですが、商業的にまとまった蓄積を持っているのは、ほぼ青森県だけ。林野庁・東北森林管理局が公表する最新の値では、全国国有林のヒバ蓄積量約 1,561 万m³ のうち、約 1,271 万m³(およそ82%)が青森県内に集中しています。

半島が「ヒバの森」を作る

青森県内でも、ヒバが特に多いのは 津軽半島下北半島 のふたつ。両半島は日本海・太平洋・陸奥湾に囲まれ、夏は涼しく、冬は雪が深い。地質は古第三紀の堆積岩や火山性の土壌が中心で、栄養豊富とは言えない場所も多い土地です。

ヒノキやスギにとっては育ちにくいこうした条件でも、ヒバは時間をかけてゆっくり育つことができます。耐寒性が高く、雪の重みにも耐えられる粘り強さ、痩せた土地でも根を伸ばせる適応力。北方型のヒノキアスナロが、まさにこの地に最適化された樹種だということが、植生として残された蓄積から見えてきます。

東北森林管理局青森森林管理署の管内では、樹種別蓄積でスギに次いで第2位、ヒバが約 25% を占めるという公表値があります(第六次国有林野施業実施計画書、令和6年度版『国有林のあらまし』)。スギは戦後の人工林、ヒバは天然林という違いはあるものの、青森の山がヒバの本拠地であることは数字でも裏づけられています。

「青森・能登・木曽」の三角形

歴史的には、青森ヒバと並んで 能登半島(石川県)と 木曽地方(長野県)にもヒバ・アスナロ系の樹林が知られてきました。北陸では古くから「アテ」と呼ばれ、輪島塗の素地として400年使われてきた経緯があります。木曽では「アスヒ(明日檜)」の名で、ヒノキとの混交林に交じっていました。

それでも、現代の市場でまとまった製材が出てくるのは、ほぼ青森のみ。地名と樹種が結びついた「青森ヒバ」というブランド名は、こうした歴史と分布の結果として自然に出来上がってきたものだと言えます。

北限の意味

北海道渡島半島の天然林が、いま日本列島で確認されているヒノキ科樹種の最北の自生地です。この一線を越えると、ヒノキ科の代わりにエゾマツやトドマツといったマツ科の世界になります。

ヒバが「北の木」と呼ばれる理由は、こうした生物地理の事情にもあります。私たちが台所で手にする一枚のヒバまな板の、はるか北、雪深い山のことを少しだけ想像してみていただけたら嬉しく思います。

— Hiba Kitchen