「ヒバ」と呼ばれる4種の木 — 国産・米ヒバ・米杉・台湾ヒノキ
市場で「ヒバ」と名乗る木は、実は1種ではありません。国産の青森ヒバを軸に、北米の米ヒバ・米杉、戦前の台湾ヒノキまで、ヒノキチオール仲間の系譜を整理します。
豆知識シリーズ、第4回。今月はちょっと細かい話、けれど大事な話です。建材市場では「ヒバ」と名乗る木が、実はいくつかあります。それぞれの違いを整理しておきます。
① 青森ヒバ(ヒノキアスナロ)
学名 Thujopsis dolabrata var. hondae、和名はヒノキアスナロ。本シリーズで一貫して扱ってきた、津軽・下北に集中する地域固有の樹種です。ヒノキ科アスナロ属の常緑針葉樹で、心材にヒノキチオールを比較的多く含みます。
国内産で、まとまった商業流通があるヒバといえば、ほぼこれを指すと考えてかまいません。建材としても精油としても、「青森ヒバ」の名前で出回るものは原則としてこの樹種です。
② 米ヒバ(アラスカヒノキ/イエローシダー)
英名 Alaska Yellow Cedar、学名は Callitropsis nootkatensis(旧 Chamaecyparis nootkatensis、Cupressus nootkatensis などの異名あり)。北米西海岸、アラスカからカリフォルニアにかけて分布するヒノキ科の樹種です。
色は黄味がかった淡い肌色で、青森ヒバよりやや明るい印象。心材にヒノキチオールを含むことが知られており、戦後、安価な代替材として日本にも大量に輸入されてきました。建材や浴槽材などで「ヒバ」と表記されている輸入材の多くは、実はこの米ヒバを指しています。
③ 米杉(ウェスタンレッドシダー)
英名 Western Red Cedar、学名 Thuja plicata。同じく北米西海岸の樹種で、こちらも「ヒバ系」のヒノキチオールを少量含みます。色は赤褐色で、米ヒバよりは赤みが強い。耐朽性に優れ、海外ではサイディングやデッキ材として広く使われています。
「米杉」と書きますが、スギ科ではなく ヒノキ科クロベ属。和名の「杉」は色と質感が日本のスギに似ているため当てられた便宜的な名前で、植物分類的にはむしろヒバの仲間です。
④ 台湾ヒノキ
学名 Chamaecyparis taiwanensis(または Chamaecyparis formosensis)。戦前の日本領台湾の山岳地帯で大規模に伐採された、巨大なヒノキです。日本の木造建築の名作の多くに使われてきましたが、戦後の伐採制限と希少化により、現在は新規伐採がほぼ停止しています。
豆知識⑪(来年5月予定)で詳しく書きますが、ヒノキチオール という成分は1936年、当時の台北帝国大学にいた野副鉄男博士が、この台湾ヒノキの油から最初に単離した物質です。「ヒノキ」の名がついているのに、日本のヒノキ(Chamaecyparis obtusa)にはほとんど含まれないという、ちょっと矛盾した名前の由来がここにあります。
ヒノキチオール含有量の違い
4種のうち、心材中のヒノキチオール濃度がもっとも高いのは、実は青森ヒバではなく台湾ヒノキです。ただし台湾ヒノキは新規入手が事実上できないため、現代の市場で安定供給される樹種としては、青森ヒバが代表格となっています。
米ヒバや米杉も成分としてはヒノキチオールを含むものの、含有量は青森ヒバよりも少ないとされており、また樹種ごとの香りや色の個性も異なります。「ヒバの抗菌・耐朽の効果」を期待して購入する場合、どの「ヒバ」を選ぶかで結果が変わってくるわけです。
「青森ヒバ」と明記する意味
Hiba Kitchen で扱う商品が、商品名や説明にあえて「天然青森ヒバ」と樹種を明記しているのは、こうした市場の事情への意識の表れでもあります。「ヒバ」という言葉はとても便利ですが、その背後には4種類の異なる木があるのだということを、ご購入のタイミングで少し思い出していただけたらと思います。
— Hiba Kitchen