植林できない木 — ヒバを支える「天然更新」の仕組み
スギやヒノキのように苗を植えれば育つわけではない青森ヒバ。母樹・下層植生・適度な日陰がそろってはじめて自然に芽吹く「天然更新」と、それを前提とした択伐の考え方について。
豆知識シリーズ、第5回。今月は青森ヒバが「植林できない木」だと言われる、その理由のお話です。
スギやヒノキの林業に親しんできた方には少し意外に響くかもしれません。けれど、ヒバが200年かけて育つ木だということと、植林ができないという事実は、深いところで結びついています。
苗を植えても育ちにくい
ヒバの育成試験は、戦前から国・自治体・林業会社によって繰り返し行われてきました。苗木を作り、伐採跡地に植え、定期的に下刈りをする。スギ・ヒノキで成功している方法をそのまま当てはめてみたものの、結果として 十分な歩留まりで成林させるのは難しい ことが繰り返し確認されてきています。
理由はいくつか考えられています。ひとつは、ヒバの種子の発芽率がそもそも高くなく、発芽してからもごくゆっくりとしか伸びないこと。スギなら20年、ヒノキでも50年で目立つ大きさになりますが、ヒバは数年で数センチということが珍しくありません。
もうひとつは、若木が 強い日射を嫌う こと。直射日光下では葉焼けや乾燥で枯死しやすく、ある程度の上層樹冠による日陰がないと安定して育ちません。一度全伐してしまった裸地に苗を植える、というスギ・ヒノキ型の方式では、ヒバの若木には条件が厳しすぎるのです。
「天然更新」とは何か
そこで採られているのが 天然更新(てんねんこうしん)という考え方です。簡単に言えば、人工的に苗を植えるのではなく、山に残っている母樹(種を作る親木)から自然に種を落とさせ、自然に芽吹いた稚樹を、次の世代として育てる 方法です。
天然更新が成立する条件は、おおむね次のようなものです。
- 種子を供給する 母樹 が一定の密度で残っていること
- 林床に、種子が発芽できる程度の 下層植生・腐葉土 があること
- 若木が枯れない程度の 適度な日陰 が、上層樹冠によって保たれていること
これらの条件をすべてそろえるためには、伐採の仕方を慎重に選ぶ必要があります。全伐ではダメ、密生しすぎてもダメ。バランスのよい「半分ほど残す」ような切り方が、ヒバの場合には適しているとされています。
「択伐式」林業との結びつき
ヒバ林業で長く実践されてきたのが、択伐式(たくばつしき) と呼ばれる伐採方式です。林分全体を一度に切るのではなく、伐期に達した木だけを 一本一本選んで切り出す。残された母樹から落ちる種子と、隣接木が作る日陰の下で、次の世代の稚樹が育つのを待ちます。
200年というスパンで考えると、毎年伐れる量はわずかです。森全体のうち1〜2%程度しか手をつけられない、というのが現実的なところ。けれど、その「手をつけない」ことが、ヒバの森を次の世代に残す唯一の方法でもあります。
数字で見ると
戦時には年間 250 万m³ が伐り出された青森ヒバも、現在の出材量は 年1万m³前後 にまで絞られています(東北森林管理局公表値)。これは森の回復を優先するための意図的な選択で、択伐天然更新の考え方を全面採用した結果です。
つまり私たちがいま手にする一枚のヒバ製品は、200年前に天然更新で芽吹いた木から、数十年待って母樹に育ち、さらに数十年待ってようやく択伐された——そんな長い時間の流れの先端にあるものだということになります。
毎日の台所で使う道具のなかで、これほど時間軸の長い素材は、そう多くありません。
— Hiba Kitchen