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900年経っても腐らない木 — 中尊寺金色堂と青森ヒバ
豆知識 · 2024.12.15

900年経っても腐らない木 — 中尊寺金色堂と青森ヒバ

平安末期1124年に建立された世界遺産・中尊寺金色堂。その構造材の9割以上が青森ヒバで、900年以上が経った今も当時の姿を保ち続けています。歴史が証明する耐久性のお話。

豆知識シリーズ、第6回。今月は、青森ヒバが実証してきた「時間に対する強さ」のお話です。

抗菌・耐朽の試験データは、第2回シリーズ記事「ヒノキチオール」で詳しく扱いました。今回は、データではなく「実物」が900年語り続けている事例として、岩手県平泉町の 中尊寺金色堂(こんじきどう) を訪ねます。

1124年、奥州藤原氏の時代

中尊寺金色堂は、奥州藤原氏初代・藤原清衡(きよひら)によって 天治元年(1124年) に建立された阿弥陀堂です。皆金色の阿弥陀堂として知られ、内部の柱・壁・天井に至るまで漆塗りの上に金箔が押された、文字通りの「金色」の堂。1951年には国宝に指定され、2011年には「平泉—仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群」として世界遺産にも登録されています。

この建物の構造材を解体修理時に調査した結果、9割以上が青森ヒバ で構成されていることが確認されています。一部にケヤキが用いられているものの、柱・梁・床板など主要な構造体はほぼヒバ。屋根の野地板や壁の下地材まで、徹底してヒバが使われています。

平泉から青森までは直線距離で200キロ以上。当時の運搬手段を考えると、わざわざ青森からヒバを運んできた、というのは相当な意志です。それだけ「この建物には、この木でなければならない」という選択だったのでしょう。

「水・湿気・虫」に強いから

金色堂が選んだのがヒバだったのは、おそらく当時の大工・材木商が経験的に知っていた ヒバの耐久性 ゆえだったはずです。

木造建築にとっての三大敵は、水・湿気・腐朽菌・シロアリ。雪深い東北の地で、屋外に近い条件で何百年も立ち続ける建物には、これらすべてに強い木が必要でした。青森ヒバは、その三つすべてに対して、当時の他樹種と比べて圧倒的に有利だったのです。

20世紀以降、林業試験場や大学の試験で「ワタグサレタケへの耐朽度が10樹種中最高評価」「シロアリ食害がほぼ確認されない」といったデータが出るようになりますが、それはあくまで近代科学が後から 裏づけ た事実。実物のヒバ建築は、データが取られる何百年も前から「腐らない」「虫がつかない」ことを示し続けていました。

心材だからこそ

豆知識⑯(来年10月予定)で詳しく扱う予定ですが、ヒバの耐久性は、ほぼ 心材(樹の中心部の死んだ細胞群)に局在しています。心材にはヒノキチオールという芳香成分が局所的に蓄えられており、これが微生物・昆虫の活動を抑制します。

金色堂の構造材として使われているのも、ほぼ間違いなくヒバの心材部分。樹齢200〜300年級の大径木から、心材だけを丁寧に切り出して使った、当時としては相当贅沢な材料の使い方です。900年残ってきたのは、樹種の選択と部位の選択、両方が正しかったということでもあります。

大規模修理という証拠

金色堂は、1962〜1968年の 昭和大修理 で本格的な解体修理を受けました。そのときの調査で、構造材の樹種同定が行われ、ヒバの使用率の高さが学術的に確認されています。修理時に取り替えられた部材は限られており、創建以来の材が今も建物の主要な骨格を支え続けていることが分かっています。

900年前のヒバが、いま私たちが手にする一枚のまな板と、植物学的にはほぼ同じ性質を持っている。データを超えて、時間そのものが品質保証になっている素材というのは、そうそうあるものではありません。

— Hiba Kitchen