シロアリも避ける木 — 宮崎大学の食害試験から
木材にとってのもうひとつの大敵、シロアリ。宮崎大学の食害試験では、青森ヒバはほぼ被害が確認されなかった群に分類されています。歴史的建造物にも通じる、その強さの理由について。
豆知識シリーズ、第15回。先月は腐朽菌のお話でした。今月はもうひとつの大敵、シロアリ のお話です。
「ヤマトシロアリ」と「イエシロアリ」
日本国内で木造建築に被害を与えるシロアリは、主に二種類。北海道を除く全国に分布する ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus) と、関東以南の沿海地域を中心に分布し、より破壊力の強い イエシロアリ(Coptotermes formosanus) です。
これらのシロアリは、湿気の多い木材を好んで侵入し、内部から食害を進めます。気づいたときには柱の中身が空洞、という被害も珍しくありません。木造住宅にとっては腐朽菌と並ぶ大敵で、防蟻処理は新築住宅の標準工程になっています。
そうしたシロアリも、青森ヒバの心材には手を出さない——というのが、複数の試験で確認されてきた事実です。
宮崎大学を中心とする食害試験
シロアリ食害試験は、シロアリの実物を用いる必要があるため、暖かい地域の研究機関が主導してきました。代表的なのが、九州・宮崎大学を中心とする一連の試験です。
試験の基本的な方法はこうです。
- 各樹種から心材部分を切り出した一定サイズの試験片を準備
- 一定数の生きたシロアリ(職蟻)と一緒に容器に入れる
- 数週間から数か月放置
- シロアリの 死亡率 と、木片の 重量減少率 を測定
シロアリの死亡率が高ければ忌避効果が強い、木片の重量減少率が小さければ食害が少ない、ということになります。
宮崎大学のヤマトシロアリ食害試験では、青森ヒバの心材は 重量減少率がきわめて小さく、シロアリの死亡率も高い という結果が報告されています。同じ条件で試験した他樹種と比較して、青森ヒバはほぼ食害を受けない群に分類されています。
イエシロアリのような、より食害力の強いシロアリでも傾向は同じで、青森ヒバの心材に対しては顕著な忌避行動が観察されます。
なぜシロアリは避けるのか
シロアリがヒバを避ける理由は、ヒノキチオールおよび関連酸性油成分の 忌避作用 にあると考えられています。
シロアリは触角や下顎を使って、餌になる木材かどうかを化学的に判断しています。ヒバの心材から揮発する成分、あるいは木材を齧ったときに口に入る成分が、シロアリにとって有害または不快な化学シグナル として作用するため、食害が起きにくい。
ヒノキチオール自体は哺乳類に対しては既存添加物として認められる安全性を持っていますが、昆虫の生理に対しては別の働き方をします。樹がもともと自分の身を昆虫・微生物から守るために蓄えた成分なので、それが対昆虫の効果として強く出るのは、生物学的にむしろ自然なことです。
古い建物が証言してきたこと
豆知識⑥でご紹介した中尊寺金色堂が、900年経っても腐らないだけでなく、シロアリ被害も極めて少ない ことが解体修理時に確認されています。築200年の弘前城天守も、築約400年の岩木山神社楼門も同様です。
これらの建物が立つ青森・岩手は寒冷な気候で、シロアリの活動が抑えられる地域ではあります。けれど、北陸の輪島塗の素地(アテ材)が、湿度の高い能登の気候のなかで400年シロアリ被害をほぼ受けずに残ってきたという事実は、樹種そのものの忌避性能の証言として、より強い意味を持ちます。
まな板での意味
シロアリ被害は、主に屋外で雨と湿気にさらされる建材で問題になる現象です。屋内の台所で使うまな板で、シロアリ被害を心配する場面はほぼありません。
ですが、「シロアリも避ける成分が含まれている」という事実は、ヒバまな板の 長期的な耐久性 を裏づけるひとつの傍証になります。腐朽菌・シロアリという二大敵に対して、化学処理なしでこれだけの防御を備えた木材は、自然界でもそう多くありません。
化学処理がない、ということは、毎日食材を扱う場所でも安心して使える、ということでもあります。素材そのものが持つ力で長く清潔に使える——それが青森ヒバの台所道具を選んでいただく、いちばんの理由のひとつです。
— Hiba Kitchen