心材と辺材 — なぜヒバまな板に「色」があるのか
一本の木のなかで、色も性質もまったく違う「心材」と「辺材」。ヒバの場合、ヒノキチオールは心材だけに局在し、暗黄色の色味はそのまま防腐成分の色でもあります。木の構造から見るヒバの強さ。
豆知識シリーズ、第16回。今月は、ヒバの木のなかでの「色の違い」が何を意味しているのか、というお話です。
ヒバまな板を実物で見ると、表面に 黄色っぽい部分 と 白っぽい部分 が混在していることに気づかれるかもしれません。これは、青森ヒバという木材の特性を理解するうえで、とても重要なポイントです。
心材と辺材
樹齢を重ねた木の断面を見ると、中心部分と外周部分で色が異なることがあります。中心部分の比較的色の濃い部分を 心材(しんざい / heartwood)、外周部分の比較的色の薄い部分を 辺材(へんざい / sapwood) と呼びます。
辺材は、樹が生きているあいだ、根から葉へと水を運ぶ通路の役目を果たしている 生きた組織。一方、心材は、加齢とともに生理活動を止めた 死んだ組織 で、樹の物理的支柱の役割を担います。
針葉樹全般にこの区別はあるのですが、ヒバの場合は、この心材と辺材の 性質の差が極端に大きい という特徴があります。
ヒノキチオールは心材だけに
豆知識⑩でも触れたとおり、ヒバの精油成分は ほぼ心材だけに局在 しています。具体的な含有比は、報告によって幅がありますが、心材と辺材で含有率に 大きな差 がある、というのが各種文献の共通した観察です。
辺材は、つい先ほどまで樹液(水)が流れていた組織で、生理的にはほぼ普通の木材。色も淡く、抗菌・耐朽性能もヒバ本来のものとは大きく異なります。
つまり、市場で「ヒバ材」と表示されているものでも、心材中心の高級材 と 辺材も含む並材 とでは、性能がかなり違うということになります。心材から作られた製品は、ヒノキチオールの恩恵を強く受けますが、辺材中心の製品ではその恩恵がほとんど期待できません。
「暗黄色は防腐成分の色」
ヒバの心材は、独特の 暗黄色〜黄褐色 をしています。新しく削った直後はやや白っぽいことがありますが、空気に触れていると次第に黄味が増してきます。
この黄色は、ヒノキチオール本体の色というよりも、ヒノキチオールと共存する 酸性油成分群の総合的な色味 だと考えられています。心材の暗黄色は、そのまま 防腐成分の濃度が高い領域 を示すマーカーでもある、という言い方ができます。
逆に、辺材の白っぽい色は、防腐成分がほとんどない領域の色。一本の木のなかで色のグラデーションがあるのは、内部で精油成分の濃度がグラデーション状に分布していることを反映しています。
心材を取るための歩留まり
ここまで読まれた方は、おそらく自然にこう思われるはずです。「だったら、ヒバまな板は全部心材で作ればいいじゃないか」と。
その通りなのですが、実はこれが簡単ではないのです。
200年かけて育った一本のヒバの幹のうち、中心の心材として使える部分は、樹齢にもよりますがおおむね 直径の半分程度から3分の2程度。残りの外周部は辺材で、まな板用としては性能的に劣ります。
しかも、まな板に使えるだけの幅と厚みを取ろうとすると、心材のうちでも 無節で割れのない、安定した部位 に限られます。一本の木から取れる「まな板用心材」の量は、想像以上に限られているのが現実です。
集成材と一枚板の選び方にも影響
このことは、まな板の製品設計にも直接影響します。
一枚板まな板:心材の良い部分だけを継ぎ目なく使うため、希少。価格も高くなりがちで、供給量も少ない。
集成材まな板:心材の良い部分を複数の小さなパーツに切り出して、貼り合わせて作るため、歩留まりが向上。価格も比較的抑えられ、供給量も確保しやすい。
どちらが優れているかではなく、心材という限られた資源をどう使うかの設計思想の違いだと考えていただくとよいと思います。Hiba Kitchen が最初の商品として集成材まな板を選んだのも、こうした資源効率の観点が背景にあります。
ヒバまな板の色のグラデーションを見るときには、ぜひ「これは防腐成分の濃度地図でもある」と思い出してみてください。一枚の道具から、二百年の森のすがたが見えてきます。
— Hiba Kitchen