一本ずつ選んで伐る — 「択伐」というヒバ林業の流儀
スギ・ヒノキの皆伐とは違い、ヒバの林業では成熟した木を一本ずつ選び出す「択伐式」が主流です。母樹を残し、若木を育て、森全体の蓄積を保つ。長い時間を前提とした伐採の知恵について。
新年あけましておめでとうございます。豆知識シリーズ、第19回。今年最初の話題は、ヒバの森を支える伐採方式 「択伐(たくばつ)」 についてです。
豆知識⑤の「天然更新」と密接に関わるテーマで、青森ヒバが他の建築用材とは違う 時間の流れ で扱われている理由が、ここに集約されています。
「皆伐」と「択伐」
林業の伐採方式は、大きく分けて二つの考え方があります。
皆伐(かいばつ):ある区画の木を、ほぼすべて一度に伐採する方式。伐採跡地に苗を植え(再造林)、植林した木が成熟したらまた皆伐する、という繰り返しになります。スギ・ヒノキの戦後人工林林業の主流。効率的で機械化しやすく、収穫量も計算しやすい反面、伐採直後の山が「禿げ山」のような状態になります。
択伐(たくばつ):林分の中から、成熟した木を一本一本選んで伐り出す方式。森全体の樹冠を保ったまま、徐々に世代交代を進めていきます。皆伐と比べて作業効率は低いものの、森の構造を維持しながら持続的な伐採が可能です。
青森ヒバの林業では、原則として 択伐式 が採用されています。これは効率の問題ではなく、ヒバの生態的特性ゆえの必然的な選択です。
なぜヒバには択伐なのか
豆知識⑤で書いたとおり、ヒバは 植林がほぼできない木 です。苗木を植えても歩留まりが悪く、安定した造林ができません。代わりに、母樹から自然に種子が落ち、適度な日陰のなかで若木がゆっくり育つ 天然更新 が、唯一の世代交代の方法です。
ここで皆伐をやってしまうと、種子を供給する母樹がなくなり、若木を守る日陰もなくなり、林分全体が再生不能になってしまいます。スギ・ヒノキなら苗を植え直せばいいですが、ヒバではそれが効きません。
そこで採られるのが、択伐式。林分の一部だけを伐ることで、母樹と日陰を保ち、若木の成長を支える わけです。
「お留山」の伝統
択伐式の発想は、実は近代林業の概念以前から、青森のヒバ林業の現場に根付いていました。
江戸時代、津軽藩は領内のヒバ林を 「お留山(おとめやま)」 として藩の直接管理下に置き、無断伐採を禁じる一方で、城・寺社・船舶などに必要な良材を計画的に切り出してきました。「全部伐ってはならない、必要な分だけ選んで伐る」という考え方は、藩が領主として行う林政の根本にすでに含まれていたものです。
明治の近代林政、戦後の林野庁体制のなかでも、この基本姿勢は受け継がれ、現在の 東北森林管理局青森森林管理署 の運営方針にもつながっています。ヒバの森を「使い続けるための仕組み」が、藩政時代から400年近く受け継がれてきている、と言ってもよいかもしれません。
一本伐るための判断
現場で択伐する木を選ぶ際の判断材料は、大きく次のようなものになります。
- 樹齢と直径:伐期に達しているか(おおむね樹齢150〜250年、胸高直径50cm以上)
- 林分中の位置:母樹として残すべきか、伐っても他の母樹で代替できるか
- 隣接木の状態:伐ったあとの空間が、隣接木に過度なストレスをかけないか
- 将来の天然更新可能性:その場所に若木が育つ条件があるか
これらを一本ずつ評価したうえで、年に数百本〜数千本という限られた本数を、広大な森林面積のなかから選び出していきます。林分全体の 1〜2% 程度が、年間の択伐対象になるかどうか、というイメージです。
200年のサイクル
択伐式の最大の特徴は、その 時間スケール です。
ヒバが伐期に達する樹齢を200年とすると、ある区画で同じ木が再び収穫できるのは、その木の代替木が育つ200年後。皆伐式のスギ人工林が40〜50年で再収穫できるのと比較すると、4〜5倍 の時間がかかります。
これだけ長い時間を前提とした林業は、いまの経済合理性の観点では成立しないように見えます。けれど、択伐式は 広い面積を組み合わせる ことで、毎年の収穫量を一定に保つことができます。1区画200年サイクルでも、200区画あれば毎年どこかで収穫できる、という考え方です。
東北森林管理局青森森林管理署が管轄する青森ヒバの森林は、こうした長期分散型の収穫計画のうえに成り立っています。年1万m³前後の現在の出材量は、その計画から逆算された 持続可能な範囲 で設定されているわけです。
一枚のまな板に宿る判断
私たちが手にする一枚のヒバまな板も、こうした長い計画の一部から生まれています。その木を伐ったのは現代の林業家ですが、その木を残してくれたのは江戸時代の藩主と、明治・大正・昭和の林政担当者たちだったとも言えます。
「使い続けるために、選んで伐る」。今年もこの考え方を大切に、青森のヒバをお届けしてまいります。
— Hiba Kitchen